会長ご挨拶

公益事業学会会長 野村 宗訓
公益事業学会会長 野村 宗訓
(福山大学経済学部 教授)

公益事業学会は戦後間もない1949年に設立され、長い歴史の中で発展してきました。恒例となっている研究発表の場である全国大会は2025年で第75回という節目を迎え、伝統のある組織を継承しています。学会に所属しているのは研究者のみならず、インフラに関連する企業・シンクタンクのほか自治体・NPOの職員など多様なメンバーから構成されています。時代の流れの中で変化する公益事業をめぐる重要な課題について、学術的に探求する専門家集団として活動を続けてきました。会員の専門分野は経済学、経営学、工学、法学、行政学、社会学など多岐にわたっています。学際的な知見から課題解決に向けた議論を繰り広げ、現実の政策形成や経営戦略に貢献しているところです。

1980年代から新自由主義やコンテスタビリティ理論などを背景に世界的な政策潮流となった規制緩和に基づき、公益事業では法的独占から市場競争へ移行している業種が増えています。しかし、頻発している自然災害や人口減少に伴う地域間格差などの要因を考慮すると、競争下に置かれている民間経営をサポートする支援措置が必要なケースがあるのも事実です。最先端技術を搭載した設備や大型装置による供給方法がとられている産業では、安定供給を維持する上でどのような制度改革が適切であるのかは、現在も模索されています。この学会では理論的な分析とデータに基づく実証に加え、異業種間での比較から示唆を導き出し、国際動向の情報を共有することも可能なところに特徴があります。

インフラ更新の資金調達という点では伝統的な財政・金融の知識を応用していく必要がありますが、AIの有効利用によるサプライチェーンの改善や脱炭素化・GXの実現に結びつく水素などの新たな燃料の普及についても、深くリサーチしていくニーズが高まっています。従来型の供給方法が変貌し、産業融合化が進展する中にあっても、依然として「ユニバーサルサービス」や「低廉な料金設定」が重要であることに変わりはありませんが、時代に即した制度設計が求められていることも確かです。世代を超えて合意を形成する上でも、学会という場が有益な役割を果たせるように考えています。今後もシンポジウムや他学会との交流など、様々な機会を通して公益事業の発展に資するように努めていきますので、ご支援・ご協力のほど、よろしくお願い申し上げます。