JSPU 公益事業学会 会長 山内 弘隆 ご挨拶
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電気、ガス、水道、電気通信、交通等人々の生活に欠かせないサービスはライフラインと呼ばれることがあります。公益事業は、このライフラインにかかわる事業です。ライフラインの重要性を改めて説明する必要はないと思います。東日本や熊本のような大震災の際に、これらの基礎的サービスがいかに重要か誰もが実感したところではないでしょうか。 ライフラインはもちろん緊急時だけでなく、日常生活において必需的な財・サービスです。公益事業研究の先達アメリカのボンブライトという研究者は、提供する財の必需性が公益事業の1つの特徴であると指摘しています。必需的な財は通常価格に対する反応度が低いため、マーケットにおいて供給者側の立場が強ければ消費者が搾取される可能性があります。そのため、いかに消費者を守るか、消費者の利益を確保するか、これが公益事業政策、政府規制の大きな目的です。 このような政府の役割が強調されるのは、ボンブライトが指摘した公益事業のもう1つの特徴と関係があります。それは、自然独占性です。公益事業は、供給システムをネットワークに依存していて、産出量の増大とともに平均費用が低下するいわゆる規模の経済が働く分野です。直観的に言っても、ネットワークが複数乱立するような市場は非効率で、単一のネットワークに収斂することになります。そうであれば、最初から事業免許(許可)等の規制を設け、独占に至る浪費的な競争を回避する施策が合理的です。そのための政府規制が要求されます。 これまで、世界の公益事業は「必需性」プラス「自然独占性」の観点から、政府規制を多く受ける産業として発展してきました。ところが近年、このような「独占の許容と公的規制の組み合わせ」という図式が変化しました。独占による供給は、生産上の非効率を生み技術革新を減退させる。結果的に消費者に必要以上の費用を負担させることになる。これを打開するためには、供給システムのうち市場化が可能なものを切り出して、競争圧力にさらす。その結果新しい業態が誕生し、社会全体の効率化が達成される。このような主張が一般的になりました。 1980年代以来、欧米を先駆として公益事業における競争導入が試みられています。わが国でも、1980年代後半に電気通信や航空分野の規制緩和が始まり、90年代後半から起こった電気・ガスの小売り部分自由化は、電気について2016年4月、都市ガスは2017年4月からの全面自由化に至りました。20世紀の終盤から始まったこの大きな政策転換が、今後どのような結果をもたらすか、よりよい結果をもたらすために何が必要か、大きな注目を集めるところです。 公益事業学会は、古くて新しいこの産業分野について、学術的な分析を行う研究者の集まりです。ディシプリンは、経済学、法学、工学など多岐に及んでいます。また、行政や事業体の一線で活躍する官僚や実務家も含めて、多様な議論を展開することによって、リアリティのある政策を模索し提案することを目的としています。われわれは、この事業がライフラインを担う産業であるからこそ、客観的で真摯な研究が重要であると考えます。ご興味のある研究者の方には是非ともご参加いただき、またご関係の皆様にはご指導ご支援をいただければ幸甚です。